共通テスト試行調査(日本史)について

目次

初めに

2018年に実施された日本史の共通テスト試行調査を自力で解いた上で大学入試センターが公表したデータを参照しつつ分析し、さいごに共通テスト日本史の傾向や対策について私なりの意見を述べようと思う。問題を解いていない人にもおおよそのことが分かるように配慮して書いたつもりだ。

 

注意

私はセンター日本史本番でも満点をとったことがあり、最低限の知識は持ち合わせているつもりだが、結局のところこれは専門的な教育を受けたことのない一介の浪人生が数時間で書いた記事にすぎないので、あまり真に受けず、軽く読み流す程度に目を通すと良いと思う。

 

設問別感想

※図や表を再現するのが難しいため、まず最初に問題文に代えて大学入試センターが公表した「概要」を載せ、その後必要に応じて問題文を引用するという形をとっている。正確な問題文を知りたい方はこちら↓

https://www.dnc.ac.jp/daigakunyugakukibousyagakuryokuhyoka_test/pre-test_h30_1111.html

第1問

問1概要

古代から現代に至る開発・災害に関わる年表に示された歴史的事象の共通性を見いだし設定された主題について考察する。

 

問1感想

年表を読んでその主題を選択肢の中から選ぶ問題。国語力が問われる。逆に言えば国語力しか問われない。「水稲耕作」や「治水事業」などについて書かれた年表の主題は「開発」、「噴火」や「津波」などについて書かれた年表の主題は「災害」だと分かる。これを解けない人はほとんど居ない(実際の正答率も99%)と思われるのでわざわざ出題する必要があったのかは疑問。

 

問2概要

例示された歴史的事象が生じた時期をとらえる。

 

問2感想

こちらも日本史の知識があまり無くても解ける思考力問題。正答率も8割を超えている。日本史の知識を活用するならイは「兵庫県」から近代、ウは「渡来系技術者集団」から古代だと推測ができるが、それすら分からなくても解ける。選択肢が6つあって一見とっつきにくそうに見えるのが正答率が下がった原因だと思われる。

 

問3概要

戦国大名が実施した政策をとらえる。

 

問3感想

問題文に、適切でないカード(文章が書いてある)を選べとあるが、やっていることは従来の誤文選択と変わらない。文章をカードにまとめることで無理やり「新しいことをやってます」感を出そうとした出題者の努力が垣間見える。カードに書かれた文章を読むと、④のカードに「銭座を設けて」とあり、銭座は江戸時代に設けられたのでこれが戦国大名の政策としては適切でないとわかる。歴史用語がどの時代に属するものなのかを知っていれば解ける問題。

 

問4概要

二つの資料から読み取った情報を比較し,資料が伝える内容をとらえた上で,防災の視座から資料が持つ意味や文化財としての価値を考察する。

 

問4感想

資料を読めば日本史の知識なしで解けるようになっている。正答率は95%と高い。問1と同様、日本史の知識が要らない思考力問題を、わざわざ日本史の試験で聞く必要があるのか甚だ疑問だ。

 

問5概要

立場の異なる複数の資料から読み取った情報を総合し,歴史的事象の影響の多面性を考察する。

 

問5感想

資料の読解のみでも、教科書の知識でも解くことも出来るので正答率は87%と高い。これは本筋とは関係ないが、生徒が書いた「論述の要旨」なるものの最後の1文で足尾銅山鉱毒事件に関して、「いま重視されているように、環境に配慮しながら生産できればよかったのだが」とあるがこれは不必要に思える。大昔の出来事に対して現代の価値観で感想を述べることになんの意味があるのか。例えば、豊臣秀吉に関するレポートに「もっと人権に配慮しながら天下を統一できればよかったのだが」などと書くことに意味がないのは明白だろう。また、武田晴人氏の著書を元に資料(イ)が作成されているが、氏の著作には日本経済史に関するものが多く、今後も共通テストの資料の出典となる可能性がある。

 

問6概要

各時代に行われた開発の事例や各時代において災害が生じた際の代表的な救済策をとらえ,それぞれの時代の政権の特徴や推移を時系列的に考察する。

 

問6感想

以下のa〜eを並び替える問題。

a中央政府の機能が弱く、在地の力で自ら救済することが原則であった。

b法律が整備され、大規模工事の際には影響を事前評価する仕組みができた。

c河川の修復のため、地方の諸侯にお手伝普請が課せられた。

d中央政府の指示により陸海軍が派遣され、救援に当たった。

e中央政府の命令で郡家の倉から米が施される仕組みがあった。

 

これまでの設問と比べるとやや難しい。bは環境アセスメント法についてなのだが山川の詳説日本史に記載がない。「法律が整備され」とあるのでおそらく現代のことだとは推測がつくが確証は持てない。

 

第2問

問1概要

資料から読み取れる古代官道の特徴を踏まえて,その性格をとらえる。

 

問1感想

官道がどういったものなのかをある程度知っていないと絞れないため、やや難しい。また、選択肢にある「官道は都の街路と同じ方位でルートが設定された」の意味がよく分からない。

 

問2概要

(1)資料から読み取れる旧国名を手がかりに,古代官道の名称をとらえる。

(2)資料に示された古代官道制度が衰退していく背景を,律令国家の変遷と関連付けて考察する。

 

問2感想

(1)旧国名の知識(ただし、それほど細かくはない)が求められている。旧国名を直接聞かれる機会は意外とないので知識を聞く問題としては盲点を突いた良問と言えるかもしれない。ただし、日本史をあまり勉強してこなかった人でも、その地域に住んでいたらおそらく分かる問題なので全国の受験生が受けるテストとしてはやや公平性にかけるかもしれない。とはいえ、そんなことを言い出したらキリがない。この程度なら許容範囲だろう。

(2)(珍しく?)資料の読み取りと知識の両方がないと解けないため、共通テストが当初めざしていた問題、といった印象を受ける。ただし、「官道制度の衰退の背景には、外国使節の交通路の転換がある」という1文の正誤を判断する根拠が山陽道の1例しか確認できず、その1例のみから官道全体に関することがらを判断してしまうのは、なんだかいい加減なように思える。正答率は15.6%と低い。

 

問3概要

中央政府が整備した官道や城柵が周辺地域に与えた影響をとらえその評価の根拠となる歴史的事象を示す。(複数選択)

 

問3感想

正答率9.1%と今回の試験ではダントツで正答率が低い問題。9つから2つを選ぶ問題だからというのもあるが、それにしても低い。与えられた日本地図が通常と反対になっていて一瞬何が何だかわからなくなるが、センター試験でも似たような出題がなされたことがあるのでその点の新鮮味はそこまでない。問題文に「地図から読み取れる情報の中から正しいものをX〜Zから選び、選んだ情報と歴史的事実a〜cの組み合わせとして正しいものを下の①〜③から選べ」とある。まず、前者の地図から情報を読み取る作業であるが、これは前述の日本地図が逆さまになっている点に気をつければ比較的容易にできる。しかし、後者の情報と歴史的事実の組み合わせを選ぶ作業には時間がかかる。なぜならば、書かれている歴史的事実そのものは全て正しく、「組み合わせとして正しいもの」を決める基準が漠然としているからである。結局私は、先の工程で3つに絞った選択肢のうちcの「蝦夷は、独自の言語や墓制などを保持した」は地図から読み取った情報「中央政府はこの地域の平野部から支配域を拡大していった」と比較的関係なさそうなので、おそらくこれを除いた2つが正答だろうと主観的な判断で解き、正解もその2つだった。しかしcも「独自の文化の保持を通じて結束することで中央政府の侵略に対抗しようとした」、あるいは「蝦夷は軍事面では中央政府の支配域の拡大を許したものの、文化面ではその独自の言語や墓制を保持し続けた」のように書けば情報と組み合わせることができていると言えないだろうか?正答であるaの「蝦夷はしばしば多賀城や秋田城を襲撃の対象とした」やbの「中央政府は城柵の近くに関東の農民を移住させて開墾を行った」も情報と組み合わせるには言葉を補わなければならないのに、cだけが誤答と言い切ることはできるのはなぜだろうか。

 

問4概要

資料に示された関所の機能に関わる情報を読み取り,既習の知識を基に,古代,中世,近世各時期の関所の特徴をとらえ,推移や変化を考察する。

 

第4問感想

資料と文を組み合わせ、さらに時代順に並び替える問題。日本史の知識と資料の読み取りが必要だが、知識も読み取りも、そこまで難しいことは問われていないのであまり迷わなかった。正答率は54%で、これまで簡単すぎたり難しすぎたりする問題が多かったが、これはちょうど良い難易度と言えそうだ。

 

第3問

問1概要

資料が示す中世社会の特徴について,海外からの影響の有無についてとらえる。

 

問1感想

4つの絵から海外と関係のあるものを選ぶのだが、外国人(南蛮人)が描かれている②が正解とすぐにわかる。正答率も91%と高い。

 

問2概要

古代から近世に至る日本と東アジア地域やヨーロッパ諸国との対外関係の特徴についてとらえる。

 

問2感想

10〜14世紀の外交の知識と若干の思考力を要する問題。正答率は46%で標準的な難易度と言えそうだ。

 

問3概要

(1)資料から中世社会に 関わる情報を読み取り 既習の知識を活用して この時期の社会・経済 の特徴と関連付けて考察する。

(2)中世に展開する農業の集約化に関連する歴史的事象をとらえる。

 

問3感想

(1)資料を読み取る問題。注でほぼ分かるが、知識として問丸・馬借・車借のどれかを知らないと厳しいか。正答率は80%と高い。

(2)室町時代におきた出来事に関する正誤問題。「鍬・鎌・鋤などの鉄製農具が広く普及し、牛馬の使用が進んだ」とあるが、鍬・鎌・鋤に関する知識は江戸時代に備中鍬が普及したことくらいしか持ち合わせていないので難しく感じた。ちなみにこの文は正しい。

 

問4概要

室町時代の評価について、多面的・多角的な評価の根拠となる歴史的事象を示す。

 

問4感想

選択肢には歴史用語が直接登場しない文章が書かれており、その時代を判別する必要がある。正答率は36%と低いが文章aは南北朝の動乱, bは応仁の乱, cは惣村に関する記述であり、どれも基本的な用語なので教科書を読んでいればそれほど難しくは感じないだろう。

 

第4問

問1概要

資料から情報を読み取り、幕府が示す規則と村の一事例との差異をとらえる。

 

問1感想

資料を読解するだけの問題なのだが、かなり難しい。「資料 A では,年貢等の勘定に際し,百姓が不正な言いがかりを付けないよう,書類に印を押させることが定められている」という文aの正誤を判定する必要があるのだが、資料 A を見てみると

幕府が代官に示した法令年貢等勘定以下,代官・庄屋に百姓立ち合い相極べく候(決めるべきである),毎年その帳面に相違これ無しとの判形致し(印を押す)おかせ申すべし,何事によらず庄屋より百姓共に非分申しかけざる様に(不正な言いがかりを付けないように)堅く申し渡すべき事

とあり、「印を押す」や「不正な言いがかりを付けないよう」などの記述から正文だと判断しそうになる。しかし、別の文bを読むと、そちらはどうみても正文で(解答もそちらを正文としている)、選択肢からして両方を選ぶことはできないため、文aの粗探しをすることになる。すると、「印を押させる」ことと「不正な言いがかりを付け」ることとの因果関係は明記されていないとして文aは文bと比べて内容が不正確だと言える(しかし、「毎年その帳面に相違無しとの印を押させよ。何であろうと不正な言いがかりを付けないよう庄屋から百姓によく言って聞かせておけ」という文面からは、やはり「印を押す」ことと「不正な言いがかりを付け」ることは関係があるように読み取れる。これは私の国語力に問題があるのだろうか。)。

また、ここに至るまでに1度も日本史の知識が活用されていない。思考力問題を出すのは構わないが、思考力しか問わないのは問題ではないだろうか?正答率は36%。

 

問2概要

(1)元禄文化化政文化それぞれの特徴をとらえる。

(2)小林一茶の俳句が示す対外関係や社会状況 と歴史的事象との関係を考察する。

 

問2感想

(1)普通の誤文選択。「化政文化について書かれた文章としては誤っているものを選べ」とあることから元禄期の近松門左衛門について書かれた選択肢が誤りだとわかる。正答率が39%と知識問題の割に低いのは、文化史が苦手な高校生が多いということのあらわれか。

 

(2)一茶の俳句「春風の国にあやかれおろしや船」からロシア船の来航、「さまづけ(様付)に育てられたる蚕かな」から養蚕が重視されていたことが読み取れればよい。後者は日本史知識なしでも解けるだろうが、前者はレザノフ来航などを知っていないと正答にたどり着けないかもしれない。

 

問3概要

2枚の村絵図からそれぞれの特徴を読み取り,差異を手がかりに作成された意図を考察する。

 

問3感想

地図を読み取る問題だが、日本史の知識も必要。特に、助郷がどういったものか分かっていないと解けないだろう。本問もそれに該当するのだが、歴史資料を読み取る問題では(注)に書いてあることが決め手になることが多い。

 

問4概要

資料から文書管理の有効性についての情報を読み取り,享保の改革における諸政策との関係性を考察する。

 

問4感想

荻生徂徠の提言を読み、その説明とそれに関係がある政策の組み合わせを選ぶもの。荻生徂徠の提言の説明がbの「留帳(役所の業務記録)を作成すると行政効率が上がる」であることは明らかだが、cの足高の制とdの目安箱のどちらがこれと関係しているのかを選ぶのは難しい。どちらの政策も行政の効率化と直接関係をもっているわけではないので、私は役人に関する制度である足高の制が比較的、荻生徂徠の意見で述べられていることと関連性がありそうだと推測し、実際にこれが正答だった。しかし、目安箱に行政効率をあげるための意見を募集するという意図が全くなかったとも言いきれないので、確証は持てなかった。正答率は60%と低くない。

 

第5問

問1概要 

松方財政の特徴についてとらえる

 

問1感想

4つの文の中から正しい文を1つ選ぶ、センター試験でよく見られた形式の問題。松方財政の時期と内容を知っている必要がある。正答率は49%と標準的な難易度。

 

問2概要

既習の知識や概念を活用し,松方財政によるデフレの長期化がもたらした影響を表したグラフを示す。

 

問2感想

1880年代前半のデフレの長期化が人々の生活に大きな影響を及ぼしたことを示すデータとして適当でないものを選ぶ問題。選択肢には①小作地の割合②破産者の人数③関税収入額④農民騒擾の発生件数のグラフがあるが、グラフを読み取らずとも③関税収入額は他の3つと比べた時に国民の生活と直接関係がないのが明白なので、正答とわかる。

 

問3概要

資料から読み取った情報を基に,企業勃興期の産業の特徴をとらえる。

 

問3感想

資料を読み、それについて述べた文の正誤を判断する問題。日本史の知識がなくても解ける。

 

問4概要

資料が示す内容と同じ意識で描かれた風刺画を示す。

 

問4感想

危機意識とは黄禍論のことで、それと関係がある風刺画はどうみても②以外にはない。正答率が47%とやや低い理由はよく分からない。

 

問5概要

複数の資料から読み 取った情報をまとめ, 日清講和条約が世界に与えた影響について考察する。(複数選択)

 

問5感想

円グラフ、地図、表を読み取らせ、イギリスが利益を得ることになった下関条約の条項を選ばせる問題。正答率も38%と低すぎず、共通テストの本来あるべき姿を体現した問題だと思う。

 

 

第6問

問1概要

夏目漱石が果たした事績の特徴をとらえる。

問1感想

夏目漱石の説明として正しいものを選ぶ。選択肢は以下の通り。

①民権論や国権論の高まりの中で,政治小説を著述した。
②近代化が進む中で,知識人の内面を国家・社会との関係で捉えた。

③都会的感覚と西洋的素養をもとに,人道主義的な文学を確立した。

社会主義運動の高揚に伴って,階級理論に基づいた作品を残した

 

正答を選ぶこと自体はさほど難しくない。何故ならば、山川の詳説日本史の314ページに「自然主義の隆盛に対立する形で、知識人の内面的生活を国家・社会との関係で捉える夏目漱石」という記述があるからだ。もしそれを知らなかったとしても、③は詳説日本史の白樺派を説明した記述と同内容であるし④もプロレタリア文学の説明と一致しており、①も高校の授業等で漱石の小説を読んでいれば消去できるだろう。もっとも、漱石の小説を政治小説だと解釈した者が皆無だとは言い切れないが。ところで、この問題は教科書の「〜の作品の特徴は〜である」といったいわば紋切り型の説明を覚えることを強要しているわけで、共通テストの理念とは合わないのではないだろうか?正答率は29%と4択の問題としてはかなり低い。

 

問2概要

日露戦争後に見られた社会的風潮をとらえ, そうした風潮が生じた背景や影響を考察する。

 

問2感想

日露戦争後の日本人の意識の変化の捉え方、甲・乙とそれぞれの根拠として考えられる歴史的なできごとア~エの組合せとして最も適当なものを選べという問題。ア「農村では旧暦が併用されるなど、従来と変わらない生活が続いていた」とエ「新聞紙条例を発布」は明らかに日露戦争と関係がなかったり年代が違ったりするので思考力を働かせなくとも消去法的に解くことができる。

 

第3問概要

大正~昭和初期にかけての大衆文化の特徴をとらえ,大正~昭和初期の政治動向との関係を考察する。

 

第3問感想

マスメディアが発達した背景となった大正から昭和初期のできごとを以下の選択肢から選ぶ問題。

①小学校教育の普及が図られ,就学率が徐々に上昇した。

啓蒙思想の影響で欧化主義の傾向が現れた。
③洋装やカレーライスなどの洋風生活が普及した。
中等教育が普及し,高等教育機関が拡充された。

 

背景を考えさせる問題なのかと思いきや、実際は各選択肢の時期を知っているだけでほぼ解ける。①と②は明治時代なので不適。③は明治のことか大正のことかはっきりしないので、そこだけは思考力を働かせる必要がある。「概要」にあるような作業をする必要はない。正答率が23%と低いのは、背景となったかどうかだけを考えて、つまり無駄に思考力を働かせてしまった結果、①を選んだ人が多かったからではないかと思う。

 

第4問概要

吉野作造が唱えた理念と日本国憲法の基本的理念との差異をとらえ,大正デモクラシーの特徴を考察する。

 

第4問感想

民本主義についてある程度知った上で選択肢を検討する必要がある。知識と思考力を要する問題。

 

第5問概要

高度経済成長を可能とした社会的要因とその結果もたらされた社会的影響との関係性を考察する。

 

第5問感想

  

問題文をそのまま引用する。

 

Cさんの発表

私は,1960 年代を大きな転換点と考えました。1960 年に岸内閣に代わった池田内閣が「国民所得倍増計画の構想」を閣議決定し,「今後 10 年以内に国民総生産 26 兆円に到達することを目標」としました。その結果,d経済が安定的に成長する時代を迎えるとともに同時にその歪みも現れました。この時期には社会全体も大きく変化しました。例えば Y 。こうした変化から私は大きな転換点と考えました。

 

下線部dについて,その因果関係をCさんは,次のような図を作って発表すること にした。甲・乙に入る語句の最も適当な組み合わせを,次の①~④のうちから一つ選べ。

甲 ⇒ 毎年10%前後の経済成長 ⇒ 乙

ア マイクロエレクトロニクス技術の導入などによる内需拡大
イ 技術革新に伴う大企業の膨大な設備投資

ウ 公害の発生
バブル経済の出現
①甲―ア 乙―ウ ②甲―ア 乙―エ

③甲―イ 乙―ウ ④甲―イ 乙―エ

 

正解は③とされている。甲に入るのがイなのはわかりやすく(詳説日本史にも「経済成長を牽引したのは、大企業による膨大な設備投資」と明記されている)、バブル経済は1980年代のことなので乙に入るのがエではないのも分かり、正答することは難しくない。正答率も48%と標準的である。しかし、乙にウを入れていいのかはあまり確証が持てなかった、というのも、公害の発生は1960年に始まったことではないからである。例えば、足尾銅山鉱毒事件や四大公害病のうちの水俣病イタイイタイ病は1960年以前に発生している(詳説日本史図録324頁)。また、詳説日本史には「公害を批判する世論の高まり」を背景に1967年に公害対策基本法が制定されたことは書かれているものの、Cさんが転換点とした1960年代以降に公害が増加したことを明記した記述やグラフ、表などは特に見当たらない。これは山川の図版でも同様である。

「公害の発生」と「毎年10%前後の経済成長」に直接の因果関係があると言い切れる材料はあるのだろうか。

 

ここで詳説日本史を読み直すと「高度経済成長が達成される一方で,深刻な社会問題が生み出された」とあり、その例として「都市では過密が深刻な問題となり、交通渋滞や騒音・大気汚染が発生し」と述べられている。しかしこれについても、「毎年10%前後の経済成長」、すなわち1960年以降の経済成長が騒音や大気汚染の発生とどのように関係しているかは明記されていない。

 

そもそも高度経済成長は1955年からはじまっているのにどうして1960年を転換点としただろうか。「池田内閣が『国民所得倍増計画の構想』を閣議決定し,『今後 10 年以内に国民総生産 26 兆円に到達することを目標』としました。その結果、経済が安定的に成長する時代を迎えるとともに同時にその歪みも現れました。」とあるが、それ以前から経済成長率は高い水準で安定して推移しており、その歪みである公害も発生していたので、「その結果」という表現も妥当でないように思われる。詳説日本史も池田内閣に関しては「すでに始まっていた高度経済成長をさらに促進する経済政策を展開した」と表記するにとどまっている。

 

大学入試センターによると、この問題の「主に問いたい資質・能力」は「背景,原因,結果,影響に着目して歴史の諸事象相互の関連を明らかにすることができる。(事象相互のつながり)」とのことだが、私が上で考えたことが正しいかろうが間違っていようが、点数に全く影響を及ぼさないことから分かるように、この問題で本当に求められているのは単なる年代の暗記である。

 

第6問概要

高度経済成長によってもたらされた社会状況の変化をとらえる。

 

第6問感想

先程のCさんの発表のYに入る文として適当でないものを選ぶ問題。これも各選択肢の文の年代が分かれば解ける。

 

 

第7問概要

日本によるポツダム宣言の受諾と女性参政権の獲得とを歴史の転換点ととらえ,歴史的事象が持つ意味や意義を考察し,転換点ととらえる根拠を示す。(解答が前問の解答と連動し正答の組み合わせが複数ある問題)

 

第7問感想

以下に問題を引用する。

A さん,B さん,C さんの発表に対して,賛成や反対の意見が出された後,ほかにも転換点はあるのではないかという提案があり,次の1・2があげられた。あなたが転換 点として支持する歴史的事象を次の①②から一つ選び,その理由を下の③〜⑧のうちか ら一つ選べ。なお,歴史的事象と理由の組合せとして適当なものは複数あるが,解答は一つでよい。

 

あげられた歴史的事象

ポツダム宣言の受諾

②1945 年の衆議院議員選挙法改正

 

理由

③この宣言には,経済・社会・文化などに関する国際協力を実現するための機関を創設することが決められていたから。
④この宣言には,共産主義体制の拡大に対して,日本が資本主義陣営に属すことが決められていたから。
⑤この宣言には,日本軍の武装解除など,軍国主義を完全に除去することが決められていたから。
⑥従来,女性の選挙権は認められてきたが,被選挙権がこの法律で初めて認 められるようになったから。
⑦初めて女性参政権が認められて選挙権が拡大するとともに,翌年多くの女性議員が誕生したから。
⑧この法律により,女性が政治集会を主催したり参加したりすることが可能になったから。

 

 

正解は①⑤または②⑦である。2通り解答がある中の片方だけ答えれば良いので正答率も75%と高い。①ポツダム宣言を選んだ場合も②1945 年の衆議院議員選挙法改正を選んだ場合も単なる知識問題に帰着する。また、消去法で解くことも出来る。大学入試センターの「主に問いたい資質」には「歴史的事象の多面的 ・多角的な考察を通して,日本や世界の歴史の展開や歴史的な意味や意義をとらえることができる」とあるが、そのようなことはこの問題の正答を導くにあたって必要とされてない。

 

大学入試センターによる分析

全文はこちら

『科目別分析結果』より引用

3.有識者コメントの概要

大学関係者5名、高校関係者3名

○各問いの問題のねらいや、主に問いたい資質·能力が反映されていたかどうか

①評価すべき点

・全問とも「問題のねらい」「主に問いたい資質·能力」小問の概要に沿った内容となっている。

・時代の特徴や転換についてマクロな視点からとらえさせるものや、個別の事象を歴史の展開の中に位置づけさせるなど、歴史的な見方·考え方を働かせることを意識した問題が多く見られた。

②改善すべき点

・一層深い思考を促す設問や資料の工夫が求められてもよいように考える。思考力の種類だけではなく、層構造という視点も今後考えられるべきである。

・「知識·技能」より「思考力·判断力·表現力」を問うことを意図した出題が多いことは評価できるが、問題そのものは基本的な知識問題が多く、課題が残る。

○科目の問題作成の方向性を踏まえ、題材の選定や問題の場面設定、出題形式等は適切だったかどうか

①評価すべき点

・「主体的で対話的な深い学び」について、授業における生徒の具体的な学びのスタイルが想定された大問構成であり、指導の方向性や具体的な到達点について、示唆に富む内容となっている。

・①歴史がたえず異なった解釈(反論)を織り込んだ形で叙述されていること、しかし、②資料の恋意的な解釈はできないこと、を問題で具体的に示せている。こうした姿勢で、生徒に歴史を学んでほしいというメッセージになっている。

・単に歴史用語を理解するだけではなく、時代状況全般の理解とつなげている点は、優れている。

②改善すべき点

・文字資料はできるだけ原文に近い表現で出題するよう意識されていたが、資料を活用する際に文語体への慣れを前提とするのか、現代語訳して読み取りへの障壁を除くのかは今後議論の余地がある。

・「思考·判断·表現」の問題のほとんどの解答形式が、史資料の正誤、史資料と意見の組み合わせになっており、より出題形式の多様化が必要である。

・選択肢にあいまいさをふくんでいる。生活史の次元では一元化出来ない歴史現象がまま、みられる。歴史学研究上の課題でもあるが、①社会風潮を理解すること、しかし、②選択肢として厳密化し問題化することには、まだ距離があるように思える。

・本来問うべき歴史的な見方·考え方を働かせられたかの判別ではなく、問題文の意図をくみ取るのに苦労したことで正答率が低くなったと思われる設問が存在した。

・資料は多く使用されているが、資料問題(資料から読み取った情報をもとに歴史的事象を考察する)では、「資料の読み取り」(資料を多角的多面的に読み取り、そこから得た情報をもとに考えさせる)をもっと丁寧にさせるべきである。

○各科目の問題構成、設問数、内容、難易度等のバランスは適切だったかどうか

①評価すべき点

資料から読み取ることを踏まえて、出題における仮想的な読み取り者の結論(や意見)について答えさせる問題となっている。(資料を踏まえなければならない形式の問題となっている。)問題構成、設問数、内容、難易度等のバランスも適切であったと評価できる。

・設問数、内容の点では、資料読み取りに時間がかかると思われるが、制限時間内の解答に支障はない。

②改善すべき点

個々の設問·選択肢·資料が大問テーマに縛られすぎている。全体的に雑多な印象があり,様々なテーマや資料などを盛り込みすぎているように感じる。もっと大問のテーマをシンプルにして設問や選択肢を工夫すベきである。

・問題文の文字量·情報量に比べて、選択肢は、それが少ないために正答へのアプローチが不十分なところが見られるという点がある。限られた紙面で歴史的意義を考察させるに際しては、一つの事象事例で、どこまで敷行できるのか、留意する必要がある。



4.共通テストの実施に向けた方向性

平均得点率(平均正答率)は当初の目標である5割程度を上回っており、問題構成、設問数、内容、難易度等の一定のバランスはとれていたと考えられる。しかしながら、共通テストに向けて以下の点で検討の余地がある。今回の試行調査では、正答率が9割を超える小問が3問あったことから、呈示する資料や選択肢の内容を工夫することで、極端に易化した問題数を減じる必要がある。多様な学力層を識別するために、正答率が中程度からやや高い問題を一定数含む様々な難易度の問題からなる試験問題とする必要がある。試行調査の結果から3割から5割程度の正答率となる問題が多いため、現行センター試験で最も多くなる5割から7割程度の正答率となる問題を増やす必要がある。呈示する資料、選択肢の内容を工夫することや問いかけ文の複雑さを解消すること、設問中に受験生の思考過程の手立てとなるような足場かけを適切に設けるなどの様々な工夫を行う必要がある。以上のような点に配慮することで難易度の調整をはかりつつ、標準偏差が高くなるようにねらい、正答率や得点分布のバランスに一層配慮する。特に、5割から7割程度の正答率となる問題を多く設定することに留意し、様々な学力層を対象とする選抜試験となるよう企図していく。

 

対策と傾向

試行調査の特徴がある程度、2021年の共通テストにも引き継がれるという前提で話を進めたい。

試行調査の問題は以下の3種類に大別される。

  1. 図や資料の内容を読み取らせた上で、日本史の知識を活用して解く問題
  2. 図や資料の内容を読み取らせるだけの問題
  3. 単なる知識問題

大学入試センターとしては1の割合を増やしたいのだろうが、作問が難しいのだろうか、実態としては1に見せかけた2や3の問題も多い。図や資料の読み取りの対策についてだが、これには特別な対策は必要ないと言ってもよいだろう。強いていえば、注釈に重要な情報が含まれていることが多いので、読み飛ばさないように気をつけたい。センター試験にも1や2の問題はわずかではあるが含まれているので、それらの問題を数年分やって慣れれば十分だろう。また、試行調査では資料を読みとる問題で旧国名が注釈なしで出てきているのでそのあたりの知識は抑えておきたい。ただし、思考力問題が増えるとその分解答に時間がかかるのでその点には注意が必要だ。知識問題についてだが、求められている知識の水準はセンターとあまり変わっていない。試行調査では年代が正誤の判断材料になる問題が多かったので、歴史の出来事や事物がどの年代に属するものなのかを日頃から意識して学習したい。ただし、細かい年号を暗記する能力までは求められていないだろう。消去法が有効な場面も多いので、活用したい。また、近代史の占める割合が大きいので、新しい時代から順に学習するというのも有効だろう。

 

高得点をとるのに必要な勉強量についてだが、図や資料の読み取りは暗記と比べて対策にあまり時間を割かなくてすむため、センター日本史よりも少なくなるだろう。よって、あまり日本史を勉強しない人にとっては共通テストの形式の方がありがたく感じられるだろう。ただし、求められている知識の水準は下がっていないため、満点を目指すために必要な勉強量はセンターと変わらない。全体的に言えるのは、センターよりも点差が開きにくい試験になるということだ。日本史で高得点をとって他の受験生と差をつけようとしている人は注意した方が良いかもしれない。ちなみに、大学入試センターによると試行調査の標準偏差は13.40であり、過去3年間のセンター試験標準偏差が15〜20であることから、試行調査における得点の散らばりは少し小さい、とのこと。

 

そして重要なのはーー建て前では思考力を要求している共通テストの方針に逆行するようなことだがーーあまり深く考えすぎないということだ。上で引用した有識者コメントでも指摘されている通り、あいまいさを含んだ選択肢が存在している。そして思考力をはたらかせて問題を解いていれば当然、そういった選択肢のあいまいさを看過することはできないはずだが、いちいちそこで立ち止まっていては試験時間が足りなくなってしまう。あまり細かいことを考えずに解いた受験生が結果的には「得」をする、というのが共通テスト日本史の隠された特徴と言えるだろう。

 

 

 

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